計算式の準拠先: 佐藤尚弘「高分子溶液の粘度に関する分子理論」高分子論文集 69(11), 613-622 (2012)。 計算はブラウザ内で行い、入力値はサーバーに送信されません。
このツールは「化学構造だけから粘度を予言する」ものではありません。 L・q・d と、実測の固有粘度 [η]・Huggins 係数 k'、および文献値(または近似値)の Γ・χ を与えると、 有限濃度でのゼロずり粘度カーブを理論式で計算するツールです。詳しくは「前提・注意」を必ずお読みください。
計算式
最終的な粘度式(原論文の式番号どおり)。Γ・χ は円筒の軸比 L/d の既知関数、Dr0/Dr は式(15)経由で 濃度依存の回転拡散係数比から求まります。
- 式(2) Kuhn の統計セグメント数
N = L / 2q(L: 経路長 = M/ML、q: 持続長)- 式(5) 無限希釈の回転拡散係数
Dr0 = 2 NA kB T / (15 ηS M Γ [η])- 式(22)(23) Huggins 係数の分解
- 直接衝突による寄与 k'EN を式(23)で計算し、実測 k' から引いて流体力学的相互作用の寄与
k'HI = k' − k'ENを求めます。 - 式(24) 有限濃度の粘度
η = ηS { 1 + [η]c [1 + (3/4)Γχ²(Dr0/Dr − 1)] (1 + k'HI[η]c) }- 式(25) Beenakker の3次補正(オプション)
- 式(24)の最後の括弧を
(1 + k'HI[η]c + k''HI[η]²c²)(k''HI = k'HI²)に拡張。屈曲性高分子(PS等)で式(24)が過小評価する場合に使います。
原論文中に閉じた式が無い Γ・χ・並進拡散係数 Dt0・⟨H²⟩ の扱いは、次の「前提・注意」を必ずお読みください。
前提・注意
- Γ・χ・Dt0・⟨H²⟩ は原論文自体が外部の数値計算・専門書の数表を参照しており、論文中に閉じた式がありません。 このツールでは Γ・χ・実測 [η]・実測 k' を利用者が与える入力値としています (原論文4.2節が実際に行っている手続きと同じです)。
- χ に信頼できる近似式はありません。文献値を使うか、既知の希薄粘度データにフィットして 決めた値を入力してください。それらしい既定値は用意していません。
- Γ を「Kirkwood-Broersma 近似で概算する」を選んだ場合、細長い棒の回転拡散公式を式(5)に 代入して逆算した近似値です。末端補正定数は文献により異なり、精度は保証されません。 χ・k' など他の値と整合しない組み合わせでは、計算結果が物理的に無意味な値(負の粘度など)になることがあり、 その場合はツールがエラーを返します。
- 並進拡散係数 Dt0 は常に Perrin の回転楕円体近似を使用します。半屈曲性〜剛直性の高分子 (q が L に対して十分大きい場合)でのみ妥当です。柔軟鎖では不適です。
- ⟨H²⟩(既定・詳細設定で上書き可)は、田上モデルの厳密式が入手できないため、 Gauss 鎖極限の関係から逆算した近似 ⟨H²⟩≈⟨R²⟩/6 を使います。剛直性が高い系ほど精度が落ちます。
- 理論段数の計算と同様、このツールは「化学構造だけから粘度を予言する」ものではありません。 実測の [η]・k' と、文献または近似の Γ・χ を組み合わせて有限濃度のカーブを計算するツールです。
- 組み込みの5系統(Scheme 1)は、幾何パラメータ(ML・q・d・溶媒・温度)のみが原論文の値です。 [η]・k' は分子量ごとに異なり、原論文でも数表としては与えられていないため、実測値を入力してください。 初期表示の値はすべて動作確認用のプレースホルダーで、実測データではありません。
- 計算はすべてサーバー側で行われます(フォーム送信で計算し、結果を表示します)。入力値は ページの再表示・CSV ダウンロード以外の目的には使用しません。
出典
- 佐藤尚弘「高分子溶液の粘度に関する分子理論」高分子論文集, 69(11), 613-622 (2012) — J-STAGE(原文PDF)。 式(2)(5)(22)(23)(24) は原文で確認済み。
- H. Yamakawa, Helical Wormlike Chains in Polymer Solutions, Springer, Berlin & Heidelberg (1997) — Γ・χ・Dt0 の数値表の出典(上記論文の文献19)。本ツールでは未参照(購読制の専門書)。
- T. Yoshizaki and H. Yamakawa, J. Chem. Phys., 72, 57 (1980) — Γ・χ の数値計算の出典(上記論文の文献22)。本ツールでは未参照。
- H. Hoshikawa, N. Saito, and K. Nagayama, Polym. J., 7, 79 (1975) — ⟨H²⟩(田上モデル)の出典(上記論文の文献21)。本ツールは厳密式の代わりに Gauss 鎖極限近似を使用。
- C. W. J. Beenakker, Physica A, 128, 48 (1984) — 式(25)(26)の3次補正の出典(上記論文の文献33)。
- Perrin friction factors(回転楕円体の並進摩擦係数の古典的厳密解) — Dt0 近似の出典。
- 物理モデルの実装は、式ごとに上記論文と突き合わせて検証済みの Python コード
(本サイト同梱の
viscosity/パッケージ)をそのまま呼び出しています。 検証の詳細は labochro リポジトリの docs/formulas.md を参照してください。